風の力、太陽の力、土の力

私達は、日本の伝統的な土壁を使って、機械に頼らず、冬は暖かく夏涼しく、結露で困らない風通しが良い家をつくっています。

冬は、太陽の日射をたくさん室内に取り込み、土壁や土間など熱容量が大きい素材に蓄熱させます。土に蓄熱された熱は、すぐに冷めてしまうので、できるだけ熱を逃がさないように家全体を断熱材で包み室内を暖めます。夏は、日射を軒庇で遮ることで、蔵のようなひんやりした住まいをつくります。そして、春や秋は、風を通して季節を楽しみながら暮らせる家をつくります。

これこそ、私達が求める家と暮らしです。

土の力を発揮させるためには

土壁の効果を発揮させるためには、集熱×蓄熱×断熱のバランスが重要です。土壁はあるけれど断熱性が乏しかったり、断熱性はあるけど集熱が不足していたり。家をつくる際は、このバランスをうまく保つ設計力が問われる時代になってきました。

まずは、集熱×蓄熱×断熱のバランスが悪い例として日本の蔵で例えてみます。

蔵は、土壁を20cm以上厚く仕上げることで、夏はとても涼しく快適ですが、冬は陽も入らないですし寒くて住むには適していません。モノや食材を保管する機能としてはバランスが良いといえそうですが、人が住むため住居としてはバランスが悪いといえます。もし、常時、蔵を人が住む快適な環境にするならば、集熱量を増やしつつ断熱性を向上させる必要があります。

ただ、実際には、隣家に建物が建っていたり、窓をあけずカーテンで締めきっていると思っているほど集熱量は増えません。集熱シミュレーションは、熱量で計算をするので、暖房器具でもよいのですが、薪や灯油、ガス、電気を使うとエネルギーや資源を無駄に使うことになります。一昔前は、それでよかったのかもしれませんが、東日本大震災後は、やはり次の世代へツケを回すのではなく、私達が今行動し少しでも良い方向に持って行かないといけません。

最優先は、断熱性能と家の漏気をなくすこと。

もっとも手軽に冬暖かく暮らす方法は、断熱性能をあげることです。断熱性能を向上させることで、例えば、冬の室温を暖房器具を使わず18度ぐらいにキープすることができます。下のグラフは、断熱性能(熱損失係数Q値)を表したものですが、断熱性能によって室温が大きく違うことがわかります。

断熱性能は、高価な断熱材を使えば室温を一定のところまであげることができますが、数値で表さないと性能がどの程度かわからないため、きちんと計算しているかどうかが重要になります。

私達は、設計者なので、冬室温7-10度(Q値2.7w/m2k)の家をつくることもできれば、冬室温17-20度(Q値が1.0w/m2k)の家をつくることができます。強みは、住まい手の生活スタイルにあわせた室温で設計し、間取りなども自由に変更することができる(自由設計)ことです。

冬:土壁の家Q値0.5~11.7までの比較

詳しくは、以下ページに記載しています。よければ、御覧ください。

冬:土壁の家Q値0.5~11.7までの比較 のページへ

一方で、気密性能と言われる家の漏気量を調べることも重要です。

家に隙間がたくさんあれば、暖房しても漏気が多く家が暖まりにくいです。なので、下写真のように測定器を使って工事中の漏気量をはかります。設計者が住まい手に合った家を自由に設計し性能を安定させるためには、この漏気のチェックが断熱と同様に最重要課題となります。

特にアレルギー体質を改善するために家を建てる、または、リフォームされる方は、断熱性能UPと家の漏気をなくすのは必須です。

土の力は、どの部屋で発揮させるのが良いのか?

ここ数年の土壁のデータ蓄積と住まい手のヒアリングから、寝室>LDK>その他の部屋>非居室 と考えています。

就寝時が一番、体が弱まるときなので、その部屋に土壁を塗り、太陽の日射を取り込み、断熱性能を上げるのが効果的と考えています。就寝時間は、人によって違いますが、3~8時間は、必ずその部屋にいます。寝室は、家の中で一番滞在時間が長くなる部屋と言っても過言ではありません。

土壁の調湿性と蓄熱性を活かしつつ、断熱性能を高め、隙間風をなくし、自然素材で空気質を良くすることで、数年でも健康に長生きできれば、採用しないという選択はないでしょう。

土壁に囲まれた寝室。正面の窓は南面からの日射を取り込みます。

冬期に土の力を発揮させるとどうなるのか?

一言で説明するなら、土に熱を蓄えると、室温が安定し温度差がゆるやかになります。

壁に塗る荒土

下のグラフは、4種類の建物の「集熱×蓄熱×断熱の効果」を比較したグラフです。(お陽様が入る量は、4種とも同じ設定にしました)

1、一般の家(赤)は、石コウボードでクロス貼をした場合。(断熱性高い(Q値1.9W/m2K))
2、土壁の家(橙)は、土壁55mm程度にした場合。(断熱性高い(Q値1.9W/m2K))
3、コンクリート造(黄緑)は、コンクリート厚200mmの外断熱を想定。(断熱性高い(Q値1.9W/m2K))
4、蔵(水色)は、土壁200mmですが、断熱材は充填しておらず、これまで造られてきた蔵を想定。(断熱性低い(Q値10.0W/m2K))

上図、一般の家と土壁の家を比較すると、土壁を使うかどうかで、日中と深夜の温度が変わります。土壁を使うと、熱容量が増えるので温度差が小さくなります。温度差が小さくなることで、暑いと感じる時間や、寒いと感じる時間が減り、快適な環境に近づけることができます。

一方で、コンクリート造外断熱の場合は、断熱性が高く熱容量が大きいので、土壁の家より、さらに温度差は小さくなります。ただし、土壁のように調湿性はないので、湿度のコントロールは土壁が圧倒的に有利です。

逆に、蔵は、断熱性が低く、低い温度域で安定してしまうため、洞窟に入ったときのようにヒヤッとした空間になります。

土壁の蓄熱は、集熱と断熱の性能によって大きく体感が変わるので、うまく家造りに取り込めると、心強い素材であることは間違いありません。

太陽の力を発揮させるために

集熱×蓄熱×断熱の内、設計力が必要なのは集熱です。断熱と蓄熱は、素材を変更することで比較的容易に性能を確保できますが、集熱は、立地条件や敷地形状に影響するため一番難しいのです。できるだけ機械に頼らない家づくりをするために、以下の通り、私達が行っている集熱シミュレーションを紹介します。

私達は、設計を行う際、夏の日射は遮り、冬は日射を取り込むために2種のシミュレーションを行い、家の配置や形を決めるようにしています。

冬12月25日頃の様子

最近は、経済性を追求しなければいけない時代背景もあるため、工費が安価な四角い建物を建てる傾向があります。敷地の形状や隣家の位置は様々ですが、なぜか同じような建物になります。本来であれば、敷地には、隣家や塀、石積み、樹木など、必ずといっていいほど太陽の日射に関わる制約があり、これを考慮しておかないと、家が建ってから日射があまり入らないということも起こりえます。一生に一度の大きな買い物ですから、建ってみてからじゃないとわからないでは困ります。

日照設計は、これまで高価なソフトでしかシミュレーションが出来ませんでしたが、それは過去の話です。今後は、シミュレーションツールを駆使し、自然エネルギーを最大限取り入れる工夫をしていかないといけない時代になって行くでしょう。

プロの中でも、設計力に格差がうまれはじめています。

日照のシミュレーションは、学生でも簡単にできることですので、実践しているか否かが決定的な違いです。私達は、自然エネルギーを最大限取り入れることができるようにご要望に答えていきたいと考えています。

下図が隣家を考慮した日照シミュレーション一例です。

まず、家を敷地のどこに配置するのか決めるために日当たりを計算します。

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上左図は、計画敷地に隣家や塀等の影が、どういう形で落ちるのかシミュレーションをしています。春夏秋冬の日照がある時間帯で、日照が得やすいポイントに庭を配置し、中庭の北側のLDKに日照が長時間得られるよう計画しました。

上右図は、2階のシミュレーションです。寝室と子供室を東西どちらに配置するかを検討しました。シミュレーションをして見ると、東側の部屋の方が日照時間が長いので、家の滞在時間が長い奥様の部屋を東に配置しました。

隣家が密集している地域では、夏・春秋・冬ともに、このシミュレーションは効果的です。

夏の太陽を遮るためには、軒庇はどのくらい伸ばせばよいのか?

夏の太陽(日射遮蔽)は、どのくらいの時期まで日射を遮りたいかによって、軒庇の出が変わります。

例えば、雪が一年に1-3回ほどしか降らない地域であれば、おおよそ8月のお盆すぎまで日射を遮るよう軒庇の出を調整します。逆に、北海道や東北、軽井沢のように夏涼しい地域であれば、7月下旬まで、また、8月上旬まで日射を入れないようにしようと決め、軒庇の出を決めることができます。

結果的に、軒庇の出は、この地域性がとても重要になってきます。

一方で、夏の日射遮蔽を夏至の太陽高度で確認する方もいるようですが、夏至以降は、太陽高度が低くなるため室内に日射が入ってきてしまいます。とても寒い地域であれば良いかもしれませんが、温暖な地域であれば一考しないといけません。

下図は、関西の夏のお盆過ぎのシミュレーションです。天井高さに対して、軒の出を調整し日射が入らないようにしています。

8/25頃のシミュレーション。庇あり。

下図は、庇がないので、日射がどんどん入ってしまいます。日射が入ると室温があがります。室温があがるとエアコンに頼らざるをえない家になってしまうので注意が必要です。

ただ、軒庇がない家が必ずしも悪というわけではありません。軒庇がない家を造りたい場合は、反射性能が高いガラスを使ったり、3層、4層のガラスを使うことで日射遮蔽措置を施すことができます。

8/25頃のシミュレーション。庇なし。

下のグラフは、京都事務所の1年間の太陽高度を示しています。もし、7月30日まで日射を遮りたいということであれば、太陽高度を約74度で決めて計画を行えば良いということになります。ただ、注意をしなければいけないのは、7月30日と決めた時点で、夏至を中心に約40日さかのぼり、5月の中頃から日射が入らなくなります。

8/29まで日射が入らないように軒庇の出を決めると、4月中旬ごろから8月下旬まで日射が入らなくなるということを覚えておく必要があります。

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軒や庇や袖壁は、夏には有効ですが、冬は日照を妨げます。冬の日射を取り入れようとするなら、軒の出が小さい方が日射は得やすくなります。一方で、軒が深ければ深いほど、日射が入りにくくなるため、軒が深ければ深いほど良いというものでもないのです。

色々なシミュレーションをするのには時間が必要ですが、季節や地域性を踏まえた上、バランスよく自然エネルギーを効果的に取り入れることがもっとも重要になるので、実践しているプロに依頼することをオススメします。

風の力を発揮させるために

風が通りやすい家は絶対に必要です。春と秋を快適に暮らすためには、窓を適切な位置にあけて風を通すことが、快適な住まいをつくるコツです。

真夏や真冬に窓をあけて風を通す方は少ないと思いますが、いつ風を通すのかは、住まい手の自由です。

春や秋、春と夏の境目、夏と秋の境目を暖冷房機器を使って暮らすのか、または、風を通して暮らすのか、ここは大きな分かれ目です。暖冷房機器を常時運転すれば、快適な室温になるかもしれませんが、それでは、家造りに共感を得ることはできず、日々の暮らしが面白くないと感じる方も多いでしょう。

風通しをよくするコツは、窓を2箇所開けておくことです。1箇所しか窓がないと風が通りにくくなるのは、下の図をみても当たり前のことだと感じます。しかし、実際の平面計画は、この措置ができていないことが多いです。

特に、防犯対策や就寝時、外出時、雨が降った時にでも風が通り抜けるようになっているか検討している設計者は少数です。

風が通るように設計しておくことが大切!

家に風が通っているか把握するためには、通風シミュレーションで把握します。

下図は、風上の窓しか開いていない場合の簡易通風シミュレーションです。室内の扉も適度に開いている状態です。図を見てもわかるように、入口に窓があっても、出口に窓がないので風が入ってきません。入ってきてもわずかです。

これを下図のように窓をあけてみます。すると、風の通りがよくなりました。風を流すためには、風が流れやすいような仕組みと風の力を活かせる暮らしを提案しないといけないことがよくわかります。

さらに窓を大きく、部屋と部屋を一体にできるような仕組みにしました。すると、風はまんべんなく部屋の中を行き渡ります。

単に窓をあけるだけではなく、風の流れを意識し、入口と出口をつくることが大切です。部屋の扉を設ける時も、開扉では常時閉めっぱなしになるため、引戸を駆使することで風の力をあやつることができます。耐震性能をあげつつ部屋を一体空間として使うような間取りにすると効果的です。

風を通す暮らしは、日本に住むなら必須です。

どんな家でも「風が通るように設計しておくこと」が、最も大切だと思っています。


 


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